偶然の邂逅が生んだ紙面

       熊本日日新聞政経部記者 太路秀紀(46回卒)

 熊本県の地方紙・熊本日日新聞社で記者をしている。部署は、政治や経済のニュースを追う政経部。主な担当は農林水産業、すなわち1次産業だ。

アベノミクスの成長戦略分野の一つに位置付けられる農林水産業では「6次産業化」がキーワードになっている。1次産業に、加工(2次産業)や販売・サービス(3次産業)をかけあわせた概念が6次産業。国も6次化を進める政策を展開し、いまや6次化は農林水産業における「流行」ですらある。

熊本は全国的にも6次化に熱心な地域だ。豊富な農林水産資源を生かすべく、さまざまな団体が6次化に取り組む。成功事例も多いが、そんな熊本の6次化に冷や水を浴びせる事態が起きた。

熊本県の中央部、玉名市にある農協・JA大浜。正組合員500人ほどの小さな農協だが、経営的にも優良な組織として、周囲で進んだ農協合併にも加わらず、独自路線を進んできた。2011年からは国の政策に合わせて6次化に積極的に取り組み、先進事例として県内外からの視察も多かった。

そんなJA大浜が、6次化のための加工事業や販売事業の失敗から経営を悪化させ、熊本県から業務改善命令を受けたのだ。販路を十分に開拓しないまま、事業を進めた結果だった。

「警鐘を鳴らす意味でも特集紙面で伝えたい」。玉名市を担当する地元記者と連携して取材を進めた私は、6次化に詳しい研究者の意見を添える必要性を感じた。研究者の人選を進めていたところ、たまたま東海大学が主催した食と農をめぐる国際会議を取材した同僚記者から推薦されたのが、東海大経営学部でフードツーリズムを研究する新田時也准教授(34回卒)だった。

推薦された段階では、新田准教授が修道出身とは知らなかった。記者はインタビュー前に相手のことを下調べする。今はインターネットという便利なツールもある。ネット情報は全部を鵜呑みにはできないが、足掛かりにはなる。

早速、新田准教授についてネット上で情報を集めた私は、偶然に驚いた。広島出身、しかも修道の卒業生とある。楽しみにインタビュー当日を待った。

大学の研究室で気さくに迎えて下さった新田准教授に、早速切り出した。「先生は広島出身ですよね」「実は僕は高校の後輩に当たります」。思わぬ縁で、熊本の地でめぐり会った修道の卒業生同士。インタビューは、ときに広島や修道の話で脱線しそうになりながらも、順調に進んだ。

結果、熊本県内の新聞購読世帯でシェア7割を誇る熊本日日新聞に掲載された紙面が以下である。後日、農業関係者から「新田准教授のコメントがあることで、6次化すべてがダメとならなかったのが良かった」との意見も伺った。偶然の邂逅が生んだ紙面は熊本の読者に十分受け入れられたことと思う。


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